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ジョックとナードの下克上(??)BL「スイートハート・トリガー」1巻

※この記事にはネタバレが含まれています

スイートハート・トリガー (バンブーコミックス moment)

 

銃を向けられる金髪碧眼の青年とネオンイエローの表紙が衝撃的でつい手に取ってしまった本。

物語の筋としては「なんでもできるイケメンのノンケのジョック(今風に言うなら超陽キャか)」であるところの攻め・アレックスと金髪根暗(今風に言うならこちらも超陰キャか。陰キャっていう割にはピアスバチコリ開いていたりヤニを吸ってたりと若干擦れているが……これも陰キャ(私)の偏見か?)のゲイの受け・コールの2人が主にコールの卑屈さでもめては仲直りを繰り返す物語である。

 

これだけでは面白さが伝わらないので自分の個人的に最高ツボポイントをいくつか挙げていきたい。

まずは主人公のコール(根暗陰キャ君)が根暗なのにピアスバチバチなのがとても性的である。そうなの!?っていう人がピアスの穴をバチバチ開けてると正直興奮する。

そしてコールのガリガリ具合が本当に絵からよくわかること。エッチシーンで足や腕が細いのが如歳にわかり、さらにガタイの良いアレックスとの対比が最高。あとあまのじゃくで生意気なのに弱いコール君、かわいいね。アレックスも面倒だろうけど好きになる気持ちもわかるよ。

 

こんな感じで本能的にもツボだったのだが、物語の筋としても2人のもだもだとした前進と後退が繰り広げられている。画面の使い方も最高で、漫画という媒体の良さもまた感じられる。

まず、コールがアレックスに対して衝動的に好きだという気持ちを伝えてしまったシーンがある。そこで返される返事はおおよそ「は?」や「僕もそう(好き)だった」あたりに落ち着くだろうが、この時のアレックスは「おもしろいな」と返す。おもしろいな????好きだって言ってるのにおもしろいなはなくない???とつい突っ込みたくなるが、この回答からは、ノンケやジョックの無意識の驕りや「わかっていなさ」が伝わってくる。ここから「わかっていなさ」をそのまま作品に落とし込んだ作者の技量や、「わかっていなさ」を真摯に書こうとしていることが伝わる。そしてだからこそこのわからなさの葛藤を経た二人の仲直りのシーンがしみてくるのである。

 

また、コールの目がオッドアイと発覚し、コールは恥ずかしいからと隠すがアレックスはコールの目を気に入り「目を見せて」と迫るシーンがある。このシーンでコールは若干うろたえ戸惑いを見せながらも生意気な目でおずおずとアレックスと目を合わせる。ここがちょうどコールの顔面の身の2コマでセリフなしで表現される。たった2コマですべてを伝える画力の高さに感動してしまった。

 

他にも、コールが「俺のことが嫌ならほかの女を抱いてもいい」(この言葉はアレックスにとっては「恋人としては俺だけを見ていてほしいと言って欲しいのにほかの女を抱いてもいいっていうことはどういう了見だ」と感じられる)と持ち前の卑屈さを発揮させて仲たがいをしてしまうシーンがある。そこでアレックスも弱ってしまい拗ねたふりをするが、この仲たがいする二人の進退にキュンキュンしてしまう。

 

最終的にも彼らは「俺はお前に失望して/お前は俺に銃向けて/の繰り返しだろ」その流れを受け入れていくが、そのさなかで彼らが上位に立ったり弱ったりが細かく書かれていく。そんな彼らをどきどき見させてくれるのがこの作品であった。

 

最後、どうしてもつかめなかったセリフの意図がある。途中現れたリリーという女性がアレックスに抱かれる・抱かれないという話題でいつものごとくアレックスとコールが揉め、アレックスが友人と飲みコールとの関係を揶揄された後に吐いたセリフだ。

「好き勝手言ってんじゃねーよ」「俺だって情けなくて文句ひとつ言えないんだぞ」

直前の状況を見たら「ゲイだホモだと言われていることに対して文句を言いたくっても言えない」という解釈になるだろう。しかしながらそのことを言いたいのならこのセリフはあまりに不適切に過ぎる。

一方で、もっと大きく範囲を取ると、「リリーを抱いたと思われている(そんな奴だと思われている)ことが『情けない』、あまりに情けなさ過ぎてコールに文句すらいえないんだ、そういう状況を抱えている俺たちに外野がごちゃごちゃいうんじゃない」ということをいおうとしている可能性が出てくる。こちらの場合もなぜそれを一緒に飲んでいた友人たちにキレて言い放ったのかがわからず不適切に感じられる。

個々の部分に関して何かわかる方にはぜひ教えていただきたい。

 

と、そんな感じでいろいろ言ってきたがとにかくジョックとナードの格差や葛藤、自意識がとても良いのでぜひ読んでいただきたい作品だ。